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ピエモンテのしあわせマダミン

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引っ越しまし

ピエモンテのマダミンは引っ越しいたしました。

今後はどうぞ、新しい新居のほうへいらしてください
# by madamin | 2009-09-06 04:57

豚は怖いか、おいしいか。

「チャオ、ピッコリーナ(おちびちゃん) 出ておいで」
農場主がやさしいく挨拶の声をかけると、
ぶうぶう言いながら
でてきたのは、200キロ近くありそうな巨体の雌豚。
おもてにのんきな風貌を現したとたん、ズドン。
眉間にピストルから釘が打ち込まれて、即死。

これは何年か前に、豚の屠殺を見学に行った時の
ショッキングな情景だ。
でも大工場のように動物を通路で囲って
怖がる彼らを屠殺場に追い込むのではなく、
自分が殺されるという運命を悟らせないように気を使うのが
小さな農場の昔ながらのやり方だそうだ。

だからってこれは、動物の気持ちを思ってというわけではなくて、
恐怖を感じると血中アドレナリンが増えて、
肉が硬くなってしまうからだそうだ。

昔、イタリアではこんなふうに、小さな家族経営の農家が、
一軒に一頭豚を持っていて、毎年12月頃豚を絞めては
家族が一年間食べられるように、すべての部位を加工し保存した。

生で食べる内臓や血の料理―血を玉ねぎとフライパンで炒めたやつは、
プリンみたいにブリブリしてそりゃあおいしかった~、
は屠殺したすぐその日に。
残りは熟成が進む順、つまり小さい順に食べていくから、
季節ごとに食べるものが決まる。

1月頃はグワンチャーレ(頬肉の塩漬け)、
3月頃は熟成させたサルシッチャ(ソーセージ)
夏頃はスパッラ(肩肉のハム)といった具合だ。
プロシュートは一番大きな部位なので、
一年を越してから食べ始める。

こんな歴史が、イタリアのおいしいサラミやプロシュート文化を
生んだというわけだが、今、例の豚インフルのおかげで、
プロシュートの生産者や豚肉業者は迷惑を被っているらしい。
株は暴落、売上は激減。

インフルエンザは肉を食べたのではうつらないし、もし菌があったとしても
100度で加熱すれば菌は死ぬ、といくら当局が情報を発しても
豚肉をリフューズする消費者は世界各国で増えているらしい。
気持はわかるけど。どこだったか、アラブの国では豚肉輸入の
禁止措置をとったとか。
でもね、自分たちの念のため、みたいな行動が、
他人の死活問題に関わったり、
一つの食文化を崩壊させることがあるかもしれないということを
少し考えてみたほうがいい。
小さくてコツコツいい仕事をしているサラミ生産者なんか、
こんなことぐらいで潰れちゃうかもしれないんだから。

まあね、イタリアの田舎のおじいさん、おばあさんたちは
豚インフルとはなんぞや、とどこ吹く風で昔ながらに
毎日サラミやプロシュートを食べ続けているんだろうけど。

ところで、イタリアでは世界保健機構WHOと言っても通じない。
はて? と新聞をよく見てみると、
世界保健機関をイタリア語に訳した
Organizzazione Mondiale della Sanita’=OMSと言う。
こういう名称を自国の言葉になおしちゃうのって、
どうなんでしょ。英語なんてなんぼのもんじゃい、
わしらの言葉はラテンの直系じゃ、という意識が
根底にあるのか、なんでもイタリア語に直してしまう。

ホワイトハウスだってカーザ・ビアンカだし。
そりゃあ、訳せば白い家だ。
『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラはロセッラと言う名前で
でています、イタリアでは。
スカーレットが英語で緋色という意味だから、
イタリア語で同じ意味を持つロセッラと言う名前にしたという。

そういえばU2は「ウー・ドゥエ」。こちらはアルファベットの
イタリア風発音モロ。笑えるよねーと言って、
私は昔からネタにしてさせてもらってます。

というわけで、写真はイタリア国内にも3種類ぐらいしかないといわれる
スプレッドタイプの生サラミ、マルケ州の「Ciauscolo」。
ゲロうま。
豚は怖いか、おいしいか。_e0171594_538863.jpg

# by madamin | 2009-05-08 05:41

モダーン&クリエイティブなバーニャ・カウダ

モダーン&クリエイティブなバーニャ・カウダ_e0171594_2310238.jpg先日、日本の某お惣菜&サラダショップ大チェーンの社長を、「EATALY TORINO」へご案内した。トリノの本店は、あまり調子のよくないらしい東京・代官山店とは違って、この大不況もどこ吹く風、前年比20ポイントアップという絶好調が続いているそうだ。そんな話をしてくれたのは、社長の御曹司フランチェスコ氏若干29歳。おぼっちゃまと一緒に、地下にあるレストラン「Guido per Eataly」にてランチをいただく。ここはピエモンテの名店「Guido」の支店みたいなもので、「スーパーマーケットの中にミシュラン一つ星レストランがあるのはうちだけ」と自慢げなフランチェスコ氏。なんと、バーニャ・カウダのこんなバージョンが。

例のアンチョビ入りにんにくドロドロソースが、各種野菜のピュレと層になってグラスに入っている。こちらはにんにくも少なめで、現代風ライトな味わい。
# by madamin | 2009-03-02 18:45

Bagna Caudaガセネタの真相

ピエモンテの代表的な郷土料理、といえば「バーニャ・カウダ」。にんにくとアンチョビで作ったソースを、いろいろな野菜につけて食べる冬の料理で、にんにく好きで発酵食品大好きな日本人の味覚にはたいていヒットする。最近はピエモンテにやってくる日本人観光客も増えたようで、バーニャ・カウダのことを書いているブログなんかを時々みかける。

それにしても、書いている人たちのレシピはそろいもそろってこうだ。
「材料 一人分 にんにく 1カケ」。4人分なら4カケというわけ。これはもう、不思議なぐらい何を見ても同じ様に書いてある。

でも、バーニャ・カウダの本物を食べたことがある人ならわかると思うけど、あれはにんにくをすりつぶしてオリーヴオイルでのばしたドロドロのソースを食べるもので、その量といえばご飯茶わんに1杯ぐらいは食べる。形状はにんにくのポタージュといったところ。オイルににんにく風味が軽―くついているとか、東京の高級レストランみたいにほんの気持ちだけ、おしゃれに食べるんじゃない。にんにくドロドロのポタージュを野菜ですくってどんぶり一杯ドバーン、と食べる。臭くたって食べる、胸やけしたって食べる。そう、主役はにんにくソースであって、野菜はそれをすくうための道具みたいなものなのだ。

だから、そんなものがたった1カケのにんにくでできるわけがない。いったいこんないい加減なレシピ、誰が書いたんじゃ~、と息巻いてみると、

それは私でした。すいません。

私がピエモンテに料理修業にやってきたのは、今から14年前のこと。イタリア語はできなくてもいいよと留学先の料理学校にいわれて軽い気持ちでやってきた。だからわかるイタリア語といえばウノ・ドゥエ・トレ・チャオだけ。

それなのにある時バーニャ・カウダのおいしさに感動して原稿に書いてしまった。辞書と首っ引きでピエモンテ伝統料理の本や資料を読み漁り、本にまで載せてしまった。その時、書いてしまったのである。「材料 一人分 にんにく 1カケ」と。

その時に使った、権威あるイタリア郷土料理の本を今見てみると、
「材料 一人分 にんにく ひとたま
Bagna Caudaガセネタの真相_e0171594_6261155.jpg
」とある。でも14年前、イタリア語もイタリア料理もド素人だった私の頭脳は、「ウナ・テスタ・ディ・アーリオ?(にんにく一玉)そんなはずはない。 え? しかも一人に一玉、お鍋にも一玉って書いてあるよ、まさか、紅茶じゃあるまいし」と、一笑に付し「こりゃあ、一カケのことだろう」と判断してしまったのである。 

そのレシピを掲載して出版した『ピエモンテのしあわせごはん』という本は、おかげさまで今では絶版だ。でもきっと出版された当時には、ピエモンテに行ってみようとか、ピエモンテ料理を勉強してみようなんて思ったマイナー志向の人からは、多少は重宝されたに違いない。おお、なになに、バーニャ・カウダのレシピがのってるぞー、なんて。そして、それを丸写しにしてどこかに原稿を書いた人がいたのだろう、そしてまたそれを見て…っというふうに、間違いは間違いを呼び、今ではバーニャ・カウダの日本におけるポピュラーなレシピになっちゃっているのだ。私の自意識過剰、思い違いだったらいいけれど、いやいや、恥ずかしい話である。

あ、もちろんこれは「シロート」の人たちの間での話であって、ピエモンテ州にはイタリア料理を修業にきて立派なシェフになっている日本人の人たちがたくさんいる。そういう人たちは、もちろんちゃんとしたレシピをもっているだろうし、それで稼いでいるんだもん、レシピをブログで公開したりはあまりしないだろう。


というわけで、ちゃんとしたレシピはこちら。


Bagna Caoda
(あんまり)臭わないバーニャ・カウダ


材料・2人分

 にんにく2玉(個) 
塩漬けのアンチョビ 4尾(なければオイル漬けのアンチョビ8切れで代用) 
オリーブオイル 適量
 牛乳と水 適量


作り方
①ニンニクの皮をむき、バラバラにしたら、それぞれ芯をとりのぞく。牛乳に少量の水を加えたもので茹でる。手で簡単につぶれるぐらい柔らかくする。
②骨を外し塩を洗い流したアンチョビ(オイル漬けのものはそのまま)と①のにんにく(牛乳は捨てる)、少量のオリーヴオイルをミキサーにかけて、ペースト状にする。
③ペースト状になった②にオリーヴオイルを加えてのばしたら、鍋に入れて弱火にかけ煮込む。好みで少量の牛乳を加えると乳化してソースが分離しにくく仕上がる。

こうしてできあがったソースを、専用の器に入れて野菜と一緒に食べる。器は写真のように、下に固形燃料を入れて、ソースを温かく保てるようになっている。温泉旅館の夕御飯に出てくる、一人前鍋セットみたいなやつだ。

一緒に食べる野菜は、 キャベツ、カラーピーマン、セロリ、ウイキョウ、カリフラワーやカルドやタピナンブールといったピエモンテ独特の野菜類を生で、カラーピーマン、タマネギ、じゃがいもなんかはオーブンで焼いたものを、モリモリ食べる。

このレシピはイタリア語もまあまあ堪能になった私が、何人もの地元のシェフや料理自慢のおばちゃんたちから聞いたものを、アレンジしたものである。
# by madamin | 2009-02-18 06:30 | 食べ物